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東京高等裁判所 昭和53年(行コ)73号 判決 1979年5月28日

新潟県西蒲原郡巻町大字巻甲二五三〇番地七

控訴人

筒井昭治

右訴訟代理人弁護士

西田健

新潟県西蒲原郡巻町大字巻字蓮田甲四二六五番地

被控訴人

巻税務署長

高橋作治

右指定代理人検事

竹内康尋

法務事務官 磯部喜久男

大蔵事務官 植木功

大蔵事務官 岡田繁儀

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。本件を新潟地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に掲げるほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴代理人は、出訴期間遵守に関する主張として、次のとおり付加陳述した。

1  行訴法一四条一項及び四項の「裁決があったことを知った日」とは、当事者が書類の受付、口頭の告知を受ける等の方法により「裁決を現実に知った日」を指すものであって、抽象的な知り得べかりし日を意味するものではない(最高裁判所昭和二七年一一月二〇日第一小法廷判決・民集六巻一〇号一〇三八ページ参照)。もっとも、裁決を記載した書類が当事者の住所に送達されるなどして、社会通念上裁決のあったことを当事者の知り得べき状態に置かれたときは、その裁決のあったことを知ったものと推定することができるであろうが、これは、特段の事情又は反証のない場合に限られるものである。このように、現実に知った日(正確にはその翌日)から三箇月の出訴期間が始まるものであり、それ故にこそ同条三項は「取消訴訟は、……裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。」と規定し、もって、当事者が裁決のあったことを現実に知らなくても、裁決の不確定な状態が長く続くことのないようにしているのである。

本件において、出張先から帰った控訴人が裁決を現実に知ったのは昭和五一年三月二六日のことであり、しかも控訴人は現実に知らなかったことにつき何ら過失がなかったのであるから、前記特段の事情又は反証が存在する。

2  のみならず、控訴人の妻ミチの裁決書受領をもって、控訴人が裁決のあったことを知ったものと同視するためには、少なくともミチ自身に関する限りは、送達された郵便物を開披し裁決書謄本そのものにより裁決内容を知った事実が存在しなければならないところ、ミチは、郵便物を開披せず、したがって本件裁決の内容を了知しなかったものである。したがって、控訴人が裁判のあったことを知ったものとすることはできない。

二  被控訴代理人は、控訴人の右主張に対し、次のとおり述べた。

1  従前主張のごとく、控訴人の妻ミチは、かねて控訴人不在中は控訴人あて郵便物を受領する権限を有していたところ、国税不服審判所の裁決書の在中することが封筒の表書きにより明白に看取し得る状態で本件裁決書在中の封書を受領したものである。このように、本件裁決が右受領権限を有する妻ミチの了知し得べき状態に置かれた以上は、控訴人本人が本件裁決のあったことを知ったものとすべきである。控訴人引用の最高裁判所判決は、本人不在期間中留守居の者が本人に代わり封書入りの裁決書謄本を受領する権限等を有する者とは認められない場合に関するものであって、本件には適切でない。よって、控訴人の主張1は失当である。

2  行訴法一四条の「裁決があったことを知った日」については、まず、「裁決があったこと」とは、裁決が告知により外部に表示され、その効力を発生したことをいうのであるから、本件においては裁決書謄本が控訴人方に送達された時に「裁決があったこと」になる。次に、それを「知った」とは、端的に「裁決があったこと」を知ることであり、控訴人が主張するように封筒を開披して裁決の内容を認識し理解することまで意味するものではない。したがって、「裁決書在中」と明示された封書をその受領権限を有する者が受領した以上は、その日が「裁決があったことを知った」日となる。よって、控訴人の主張2も失当である。

理由

当裁判所もまた、控訴人の本件訴えは出訴期間を徒過したものとして、これを不適法とすべきものと判断する。その理由は、控訴人が当審で付加陳述した主張1、2につき、次に説示するとおり、いずれも採用することができないとするほかは、原判決理由と同一であるから、これを引用する。ただし、判決書七丁裏一二行目から八丁表初行にかけて存する二箇所の括弧書きをいずれも「(但し、後記認定に反する部分を除く。右部分は措信しない)」に改め、同九丁裏一二行目「第一項、」を削る。

右引用に係る原判決も説示するとおり、控訴人の妻ミチは、控訴人方に送達された本件裁決書謄本を受領した当時、「平生より家事一切を切盛りするかたわら、右受領時には原告の営業の内勤の事務処理に従事し、郵便物の受領はもとより夫不在中は必要な諸事務の処理や連絡につき権限を有していたのであるから」(判決書九丁表末行ないし同丁裏三行目)、かように本人のために受領権限を有する者が本件裁決書謄本を受領したものである以上、控訴人本人が裁決のあったことを知った場合と同視すべきことは当然である(最高裁判所昭和三五年一一月二二日第三小法廷判決・民集一四巻一三号二八四〇ページ。)控訴人引用の最高裁判所判例は、本人の不在期間中留守居の者が本人に代わり受領権限を有する者と認められない場合に関するものであって、本件に適切でない。)。このことは、本人が裁決のあったことを現実に知ったのがその後であったとしても、また右受領権限を有する者が受領に際し開封の上裁決書謄本を読むことをしなかったとしても、異なるところはない。右に反する控訴人の主張1、2は、いずれも独自の見解であるから、採用することができない。

以上のとおりであって、控訴人の本件訴えを却下した原判決は相当であるから、行訴法七条及び民訴法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 賀集唱 裁判官 何蘇成人)

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